企業法務の業務内容と求められる能力・スキルって何だろう?

企業法務部

近年、コンプライアンスの重要性の高まりや急速に進む企業のグローバル化を受けて、法務部門を強化する企業が増えています。社内外のあらゆる法律に関わる問題・課題について対処していくのが法務部門の役割です。そんな法務部門での仕事内容や必要な能力・スキル、キャリアパスについて探っていきます。

企業の法務部ってどんなところ?

法務部は企業の事務・管理部門のひとつ。「企業法務」と言うと、「お堅いイメージ」「なんだか難しいことをしていそう」などの印象を持たれる方も多いのではないでしょうか。では、法務部とはどんなところなのか、探っていきましょう。

最近の法務部の動向について把握しておこう

法務部とは、すべての企業の活動にまつわる法律関係について適切に把握した上で様々な処理を行う部門のことを言います。法務部では、トラブルを未然に防止し、実際に起こってしまった問題に対しては関係する法律を駆使しながら適切に法的処理をしています。

法務部を設置する会社が増えている!

法務部門を設置する会社の数は全体的に増加傾向にあります。商事法務研究会が会員企業に対して行った調査では、法務部の設置数は2000年には部レベルが27.2%、課レベルが24%であったのに対し、2015年には部レベルが43.2%、課レベルが26%となっています。部レベル・課レベルで合わせて約70%の企業が法務専門の部署を置いていることになります。

法務担当者も増員させる傾向

また、すべての業種で、専門部署を置くだけではなく法務担当者自体を増員させる動きも見られます。同会による調査では、2005年は法務担当者が6,530名いたのに対し、2015年の調査では7,749名まで増加しました。平均人員も2005年に6.7名であったのが2015年には8.8名まで増えています。特に規模の大きな会社での部レベルでの増員が顕著です。

法務部門での採用傾向はどうなっている?

増加の一途をたどる法務部門ですが、法務部門が採用されるのはどんな人物なのでしょうか。法務部門の採用傾向について探ってみましょう。

即戦力性が求められている

法務部で採用される人材は、教育コストがなるべくかからないような法務部門の実務経験者であることが特徴です。求められる経験年数は最低3年以上で、他部署との交流経験もあるとよいでしょう。優秀な人材が見つからなければ他部門から異動させる場合もあります。

法科大学院修了生も人気

企業規模や法務部門の規模が大きい会社では、弁護士や法科大学院修了生の採用も拡大傾向にあること。商事法務研究会の調査によると、2015年の時点で211社の企業に法科大学院修了生合計350名が在籍していることがわかっています。

企業法務の仕事内容とは?

法律知識に精通したプロ集団である法務部では、どのような業務を行うのでしょうか?今度は法務部門での具体的な仕事内容について見ていくことにしましょう。

企業法務の仕事の種類

一口に「企業法務」と言っても、その仕事内容は次の5つに分かれます。

  • 契約・取引法務
  • 組織法務
  • コンプライアンス法務
  • 紛争対応法務
  • 国際法務

契約・取引法務

取引先と結ぶ売買契約や秘密保持契約、業務委託契約などについて契約書を作成したりチェックしたりする業務のことを指します。国内契約のみならず、海外の企業との契約内容についてもチェックを担当します。

商事法務

定期開催される株主総会や取締役会・監査役会などの運営、株式発行・分割、定款の変更、子会社の設立などを担います。

コンプライアンス法務

社内のガイドラインやマニュアルの作成、社員の法務教育研修や社内の法律相談窓口・社内通報窓口などの業務を行います。

紛争対応法務

企業同士も裁判になることが多々あります。企業が何らかの法的責任を問われたり、逆に他者をなんらかの問題で訴える際、弁護士とともに訴訟や交渉に対応するします。

国際法務

海外での現地法人の設立、撤退、買収、国際交渉などをメインに担当します。海外企業の買収では現地の法律事情についてリサーチを行うこともあります。

企業法務がたどってきた歴史を知る

企業法務を別の側面から見てみましょう。法務部門が求められる役割が変わるにつれて、業務内容も変化してきました。時代の移り変わりとともに変化していった法務部門の役割について変遷を辿ります。

年代 ステータス 解説
~1990年 臨床法務 1990年以前は、不祥事を起こした後に顧問弁護士と協力して訴訟に向けた対応に関する業務が主流でした。つまり、問題が起こった時にそれを解決しようとする「臨床法務(治療法務)」が法務部門の役割だったと言えます。
1990年台 予防法務 1990年代以降、銀行や証券会社の不祥事が相次ぎ、「コンプライアンス」という言葉が頻繁に登場するようになりました。企業の経済活動が多様化する昨今では、法的問題や不祥事を未然に防ぐための「予防法務」の重要性がますます高まっています。
2000年代以降 戦略法務 2000年代以降は会社法が改正されたり経営環境が変化したことにより、組織再編やM&Aが活発に行われるようになりました。また、海外事業を拡大する企業も増加し、グローバル化がますます進んでいます。そんな中、経営上の重要な意思決定に対して法務部門が積極的に関与する「戦略法務」の役割が重要視されるようになってきました。

企業法務部ではこんな人物を求めている!

企業のグローバル化が進み、国内業務・海外業務を問わずますます役割が大きくなる企業法務部ですが、そこで働くために必要な能力・スキルは何でしょうか。

企業法務の仕事で必要な能力とは

企業法務では、自分の部門だけにとどまらず、他部署と連携しながら、時には弁護士と協力しながら仕事を進める必要があります。企業法務の仕事で求められるのは法律の知識だけではありません。

  1. コミュニケーション能力
  2. ビジネスを推進する能力
  3. 英語力・文書作成能力

1.コミュニケーション能力

企業法務担当者には、社内外の人たちと折衝したり利害を調整したりする役割があります。そのため、コミュニケーション能力やバランス感覚のある人が最も求められると言えるでしょう。商事法務研究会の調査によると、「採用時に重視する能力」の内「コミュニケーション能力」が新卒・中途採用(経験者・未経験者含む)ともに第1位となっています。

2.ビジネスを推進する能力

業界の知識や商習慣などに精通していることや会社のビジネスを推進するための発想力やセンスが求められます。法律の解釈ができるだけでなく、現実的な観点からその解釈を自社のビジネスに当てはめるとどうなるのかを考える能力が必要です。

3.英語力・文書作成能力

近年では国際取引が増加していることから、英文契約書を読み解くことができるだけの英語力が問われることが増えています。その他、ウェブや文献でのリサーチ能力や文書作成能力も企業法務で求められる能力です。

企業の法務部でのキャリアパス

法務部員として企業に入社して経験を積むと、どのようにキャリアアップしていくのでしょうか。法務部でのキャリアパスについて見てみましょう。

最初はスタッフとして

法務部に配属されて間もないうちは、契約書の雛形に基づいて契約書作成業務を行います。法務部での仕事に慣れてきたら契約書の内容チェックや他部門からの法律相談、顧問弁護士との調整業務についても担当するようになります。

リーダークラスになると…

経験を積んでリーダークラスになると、事業部門とともに取引先に出向いて契約交渉などに参加し、契約内容の説明や法律に関する問い合わせ対応などを行います。弁護士とともに訴訟業務・紛争処理にあたるのもリーダーの仕事です。

部長クラスになると

さらに昇進して部長クラスになると、重要課題について経営部門にアドバイスを行ったり、弁護士の協力を得て会社を代表して紛争処理に関わります。最近では、企業の不祥事が増加していることを受けて、法務担当者やコンプライアンス担当者を役員クラスに置く企業が増えています。

企業法務部の採用、未経験でもぜひチャレンジを!

今まであまりよく知られていなかった企業法務の実態が少しは見えてきたでしょうか。法務部では経験者採用がメインとなっているものの、業界知識やコミュニケーション能力に長けていれば未経験者にも道は開かれています。実務経験がなくても、企業法務に興味のある方は一度求人に応募してみてはいかがでしょうか。

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